里親という“家族のかたち”
もし自分の親が急なけがや病気で倒れてしまったら、あるいは介護が必要になったら…? 今回は、そうしたことを体験した読者のお便りを紹介。専門家のコメントと併せて参考にしてくださいね。イラスト/かわすみみわこ
- 体験談
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実家の父(70代後半)が突然倒れました。近所の診療所で意識もうろうとなり、診療所から母に電話が。その後父は入院。市役所での諸手続きには私が行ったのですが、父の生年月日を尋ねられ、とっさに思い出せず「干支(えと)は〇〇」「いま〇歳くらい」としか言えませんでした。両親の保険証情報の写真をスマホで撮っておけば良かったと思いました。
また、私には遠方に住む兄がいるのですが、母からは「心配をかけたくないから、すぐに知らせないで」との申し出があり、そうしましたが、兄からは後から怒られました。また、父の兄弟にも知らせないでほしいと言われ、どこまで知らせるべきか悩みました。(大津市・いろどり・40歳)
親からの〝知らせないで〟
どこまで従えば?
この体験談にもある通り「心配をかけまいとして倒れたことを言いたがらない親は、少なくありません。そして息子より娘に知らせる人が多い傾向も」と話すのは、介護現場を長年取材してきた太田差惠子さん。
「命に関わる状況でないなら親戚には知らせなくてもいいと思いますが、子のきょうだいには知らせたほうがいいですね。親には反論せず『(知らせないでと言われてるけど)知らせておくね』ときょうだいに伝え、駆けつけるかどうかは本人に決めてもらっては。 親の意向を尊重して自分が叱られるのは割に合いませんよね。また、高齢者は体調が急変することもあるので『知らせなかったために間に合わなかった』となると、大きな後悔を残すことに。きょうだいが病気療養中など、負担をかけたくない場合は別かもしれませんが…」
見舞いが難しい今、遠方の身内に知らせると歯がゆい思いをさせるかも?とも思いますが…。
「退院後に介護が必要になりそうな場合、この段階できょうだいと状況を共有しておくことは重要。知らせなければ介護に参加してもらえませんから。もし自分が見舞いに行ける状況なら、スマホを使って遠方のきょうだいにオンラインで対面してもらうのも一案です」
■ご意見番
- 介護・暮らしジャーナリスト太田差惠子さん
- 1990年代より老親介護の現場を取材。3月には介護される側の親世代に向けた本「子どもに迷惑をかけない・かけられない! 60代からの介護・お金・暮らし」(翔泳社)を出版予定。
- 体験談
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75歳の父が夜間トイレに行った際、転倒して右わき腹を家具で強打。「病院行く?」と父に聞いたものの「もうちょっと様子見てみる」と言うので、それを信じてしまったのですが、数日たっても痛みが治まる気配がなく、迷った末救急車を呼びました。
この経験から思ったのが、「ちょっと様子を見よう」というのは高齢者には通用しないということ。ちょっとしたことが命取りになりかねません。父は、実は肋骨(ろっこつ)骨折→折れた骨が肺を破る→肺に血がたまる「血胸」だったため、入院が相当長引きました。「おかしいと思ったときにはすぐ行動する」というのは大事です。(草津市・はっち・46歳)
緊急時の相談先、想定してみて
救急車を呼ぶことなどに抵抗感を持つ親も少なくありませんが、日頃からどんな準備をしておけば「すぐ行動」できるようになるでしょう?
まずは「親と普段からそうした話をしておくこと」と太田さん。「例えば脳卒中は発症後4時間半以内で受診することが重要で、腕・顔・言葉の異変が見られたらすぐ対応する必要が。自家用車やタクシーで行くと診察まで時間がかかることもあるので、救急車を呼びたいところ。こうしたことを元気なうちから話しておきましょう」
救急車を呼ぶ・呼ばないで判断に迷った場合は―。「日中に倒れた場合、かかりつけの診療所に電話して相談を。夜間に倒れ、親が拒否した場合でも、朝になったら連絡をおすすめします」
また、各都道府県が作成している「医療情報ネット」(※)では、休日急患対応の病院などを探せるとも。「親が倒れてしまってからでは調べるゆとりはないので、ぜひ今すぐ確認を」
※滋賀県は「医療ネット滋賀」=https://www.shiga.iryo-navi.jp/qqport/kenmintop/
- 体験談
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84歳の母が腰の痛みで救急搬送され、検査の結果、がんと判明。幸い薬による治療が効果を上げ、徐々に持ち直しました。
母は他県で1人暮らし。退院後は介護保険を利用してヘルパーに入ってもらうことに。たまたま知人からケアマネを紹介され、その方がヘルパーを紹介してくれて、母の1人暮らしの体制が整いました。
しかし数カ月後、ケアマネの契約を解除しました。お世話になったことに感謝していたのですが、意思の疎通がうまくいかなかったり、不手際があったりしたからです。地域包括支援センターで母の持病のことも含め事情を話し、看護師資格を持った方を紹介してもらいました。介護保険を使うのであれば、地域包括支援センターに行って一から教わりアドバイスを受けるのが大切だと思いました。
現在は、私と、母の家の隣の市に住む弟とで役割分担しながら母を支えています。「自分自身が後悔をしたくない」と思うので、良いと思うことは自分から動く、母から言われる前にアイデアを出して、一緒に工夫していくようにしています。親の介護に奔走している人たちは、自分自身も大切にしてほしいと思います。(守山市・MO・63歳)
介護保険、まずは使って試行錯誤を
母親の居住地の地域包括支援センターでケアマネジャー(以下ケアマネ)の変更に際しアドバイスをもらったという体験談。
「地域包括支援センターは公平な立場上、特定のケアマネを推薦することはありませんが、ケアマネの所有資格などについてなら情報をもらいやすいかも」と太田さん。
初めて介護保険を利用する人に太田さんが提案するのは「よほど『話しにくい』と感じない限りはとにかく利用を開始して。『この人で大丈夫?』と悩んでいても、時間ばかりが経過して得策ではありません」。
しかし体験談にもある通り、どうしても相性が悪い場合、ケアマネは変更可能。「複数のケアマネが所属する事業所なら別の人にしてもらえます。伝え方に迷った場合『うちの親との相性が…』と親に悪者になってもらうのも一案です」。事業所ごと変更も可能。「地域包括支援センターに相談すると、選び方や変更方法について助言をもらえるかも」
〈編集部より〉掲載した体験談は、構成上一部割愛させていただいています。ご了承ください。
介護に関する困りごとや疑問は、(介護を受ける人の)居住地域の学区にある地域包括支援センターに聞いてみて。どこなのかがわからない場合は、市役所の担当課などに問い合わせを。
- 「リビング滋賀」配布エリア在住の人なら…
- ●大津市健康保険部 長寿政策課=TEL:077(528)2741
- ●草津市健康福祉部 地域保健課=TEL:077(561)6865
- ●栗東市健康福祉部 地域支援係=TEL:077(551)0198
- ●守山市健康福祉部 地域包括支援センター=TEL:077(581)0330
- ●野洲市健康福祉部 地域包括支援センター=TEL:077(588)2337
- 「親が倒れた時に読む本 新装版」
(枻出版社) - 親が急に倒れた経験をもつライターと編集者が中心になって情報を厳選。イラストなどを用いてすぐわかるようまとめられています。
- 「親が倒れた! 親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと 第2版」
太田差惠子著(翔泳社) - 法制度の改正に対応した改訂版。制度の仕組みや手続き、サービスや施設の費用…など、「いま」知りたいところから読めます。