加齢や生活習慣も原因に 体のニオイ夏期講座
話が聞き取れず、「え、なんて?」。逆に自分が話していると、相手が「え、なんて?」。高齢になって、または高齢者の〝聞こえ〟に変化を感じたとき、当事者だけではなく身近な人も知っておきたいポイントがあります。 スムーズな会話のためにも、サポートの必要性をいち早く感じ取るためにも、そのポイントをチェックしておきませんか。
内耳の働きの低下によって起こる〝老人性難聴〟
「高齢者の聞こえのトラブルと向き合うには、まず音が聞こえる仕組みを理解しておきましょう」とは、たてもと耳鼻咽喉クリニックの院長・立本(たてもと)圭吾さん。
音は外耳道を通って耳の内部に入り、外耳にある鼓膜を振動させて耳小骨に伝えます。その刺激は内耳で感知され、音の強弱、音や言葉に含まれる周波数の成分などを分解・分析。認識した結果は、聴神経から脳に運ばれます(下図参照)。
これらの器官や機能のどこに問題があるかによって難聴の種類は分類されており、その症状や原因も異なります。加齢による聞こえの低下は、「感音難聴」の一種である「老人性難聴」が原因だそう。
「感音難聴とは、音は比較的聞き取れるものの、その内容が聞き分けにくいのが特徴。老人性難聴は、内耳組織の細胞の減少、代謝機能の低下や血管組織の老化などが関連する内耳の働きの弱まりによって起こります」
成長期を終えた30歳代から耳の老化は進行。難聴の症状が表れるのは個人差はありますが、誰もが直面する自然な加齢現象とのことです。
耳の構造
内耳には、騒がしい環境下でも自分の聞きたい音や声を抽出して聞き取ったり、音の大小に応じて感度を調節するなどの働きもあります
本人にも周囲の人にも、心身に影響が
京都市聴覚言語障害センターの言語聴覚士・和賀早織さんによると、「〝聞こえの低下〟により、本人はもちろん、家族や周りの人にも心理面での複雑な変化が起こります」とのこと。
「『え、なんて?』と言われる側は、何度も聞き返されて大声で話しているうちに感情が高ぶってしまいがちです。かたや本人は、聞こえにくいことを受け入れられなかったり、相手から怒られているように感じて落ち込んでしまうこともあります」
そんな様子を見て、周囲の人は本人にどう接すればいいか困ってしまうというケースも。コミュニケーションが成立しにくいことが、お互いの不安や悩みにつながっているんですね。
「どちらもその根底には、『以前と同じように会話したい、生活したい』という思いがあるように感じます」
また、老人性難聴に悩む家族がいる人からは、「地域の集まりに参加しなくなった」「元気がなくなった」という声も聞かれるそう。その結果、家に閉じこもりがちになって精神的な抑うつ状態につながったり、認知症が進むことも考えられるそうです。
まずは〝気づき〟が大切に
早めの対策には、普段から本人と接することが多い家族の〝気づき〟がポイントになります。
「『テレビの音量が大きくなった』『話しかけても聞こえていないことが多くなった』といった家族からの指摘がきっかけになっているケースも多いですね」と和賀さん。
老人性難聴は徐々に進行するため、本人では聴力の変化を自覚しにくいそう。
「電子体温計の『ピッピッ』といった周波数の高い音から聞こえにくくなることが多いです。進行して、会話がスムーズにできなくなったと感じたときが受診の目安です」
難聴の種類の特定には、専門の医療機関での診察や聴力検査などが必要。自分は老人性難聴と思い込んでいた人が、実は他に原因があり、手術によって改善した事例もあるそうです。
〝いつ〟〝どこで〟〝どう使いたいか〟を基準に補聴器選び
では、対策についてはー。
「老人性難聴の場合、治療は困難なケースがほとんどです。改善するには、補聴器などを使って聞こえの働きを補う必要があります」(和賀さん)
医療機器である補聴器の使用には、まず専門医の受診と診断が必要です。検査結果や必要書類などを持って、専門的な設備や技能を持っている認定補聴器専門店で購入するのが一般的です。
「性能では骨伝導式や気導式、装着スタイルは耳穴式や耳かけ式など、さまざまな種類があります。聴力だけではなく、いつ、どこで、どう使いたいかTPOに合わせて、予算に応じたものを選びましょう」
すぐに購入せず、装用感を試しながら調整を重ねることで、自分に合った補聴器に出合えるとのことです。
軽度のうちから早めに装用を開始すると、機器から聞こえる音声や装着感に慣れやすくなり、装用効果がより高まるそう。そのためにも、早期の発見と受診が大切になってくるのです。
「補聴器を使うことで、『明るくなった』『積極的に出かけるようになった』というケースもありますよ」
また、〝手話〟や口の形で言葉を伝える〝読話〟といった、コミュニケーション手段や、要約筆記(文字通訳)などのさまざまな〝情報保障〟を組み合わせることも一つの方法。周囲の協力も大切とのことです。
話すときは、相手に「どう聞こえているか」を考えながら
周囲の人ができる対策について教えてくれたのは、(株)オトデザイナーズ代表で、京都光華女子大学 健康科学部 医療福祉学科の客員教授の坂本真一さんです。坂本さんは音響学や音声学などの研究結果をもとに、企業などで高齢者に対する接客指導も行っています。
「まず最初に知ってほしいのが、相手にどう聞こえているかということ」
坂本さんが老人性難聴の人の聞こえをシミュレーションしたところ、ひびわれたような、ひずんだような音になることが分かったそう。一音一音の違いがはっきり分かりにくいため、言葉を理解するために、何度も聞き直すことになるのですね。
適度な音量で、ゆっくり、はっきり
「周囲が心がけるポイントは、適度な音量で、一つ一つの言葉を、はっきり発音すること。そして、普段よりも2倍くらいの時間をかけてゆっくり話すこと。音が聞こえているか、言葉を理解できているかを確認しながら、その人に合った音量やスピードを見つけていくといいですね」
時間がかかって面倒と思うかもしれませんが、聞き返しや誤解などが減少することで、コミュニケーションの効率が良くなったというデータもあるのだとか。
「お互いがきちんと知識を持つことで、相手との向き合い方や意識が変わり、気持ちよいコミュニケーションにもつながっていきます。話し方を変えても改善されない場合は、耳鼻科を受診することも大切ですよ」
大声は逆効果、低い声も効果なし
特に聞き取りにくいというのが、「タ、パ、カ」「ナ行とマ行」といった周波数の成分が似通った言葉。脳に送られる信号が減少・変質するため、早口だと聞き取りにくくなる傾向もあるそうです。
「小さな声が聞こえにくいのは想像できると思います。では、大声だといいかというと、そうではありません。老人性難聴の場合、大きな声はより大音量に感じる『リクルートメント現象』が起こるのです。高齢者に大声で話しかけると、『びっくりした!』『うるさい!』などと言われることがあります。つまり、大声は逆効果ともいえます。話しかけて相手の反応があるなら、音は聞こえているということ。聞き返されたとしても、それ以上は音量を上げないことです」
また、低い声の方が高齢者には聞きやすいと言われることもありますが、かえって聞きにくい場合が多いそう。それよりも、前述のように、ゆっくりと一語一語を丁寧に発声することを心がけてほしいそうです。
話しかけるときはここに注意
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- 口元が見えるように相手の正面に向き合い、近い距離で。一音一音をはっきり、ゆっくり話す
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- テレビやエアコンなどの音量に注意し、静かな環境で話す
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- 名前や時刻といった大切なキーワードは筆談も交えて伝える