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高齢の親が病気やケガ、認知症になったとき、子ども世帯は「親のお金」にどうかかわったらいいのか、不安になる人も多いのでは。そこで、読者にアンケートを実施。親のお金についての関わり方の体験談や、専門家のアドバイスも紹介します。
※2022年5月にリビング読者にアンケート。有効回答数283 イラスト/フジー
病気やケガ、認知症などトラブルは突然に
「親のお金」とは、親自身の貯蓄や年金などのこと。普段は、親自身でお金の采配ができていても、高齢になり病気やケガで入院し、金融機関に足を運ぶことが難しくなったり、認知症などの影響で判断がおぼつかなくなったりといった事態が起きると、そうはいかなくなります。
「親世帯のことは親のお金で、子ども世帯のことは子どものお金で。それぞれの世帯で考えるのが家計の基本です」とファイナンシャル・プランナーの八束和音さん。
その上で「親世帯が子ども世帯にお金の采配を頼らざるを得ない状況は、誰にでも起こり得ます。子ども世帯にとっては気を使うこともあると思いますが、親の資産をあてにしているわけではなく、親に寄り添うためには必要なことだと考えてください」と八束さん。
読者からも、「親が急に歩けなくなり、検査入院をしました。費用を負担したのですが、パート勤務なので金銭的な余裕がない中での支払いがきつかった」(Mさん/49歳)、「生活費などのお金を支払うため、認知症の母の代わりに銀行でお金を下ろすのですが、窓口でのやりとりにウンザリしています」(Yさん/48歳)といった実体験が寄せられました。
親のお金のトラブルは突然子ども世帯にふりかかってくるようです。
〝まだ先の話〟など「対策していない」が7割弱
「親のお金」について、「対策をしている」読者は21%。「対策をしていない」読者の方がはるかに多く、67%に上ります。その理由は、「いつかはしようと思っている」「どう対策していいのか分からない」「まだ先の話で全く考えられない」がほとんどです。
中には、「親のすぐ近くに住んでいるので、何かあっても大丈夫」(Kさん/37歳)、「子どもを育てるのに精いっぱいで余裕がない」(Aさん/49歳)といった声が。
ですが、「母の預金口座やお金の使い方など、本人と話し合って対策をしているつもりでしたが、認知症の母のための生活費や介護の時間が想像以上にかかっています」(Yさん/48歳)と切実な声も。
「生前、親とはあまりお金の話をしませんでした。そのため、亡くなってから、銀行通帳や印鑑の置き場所を家中探しました」(Tさん/49歳)というケースは、よくあるようです。
「親のお金は、存命中は親世帯のやりくりのためのもの。親が亡くなると、残ったお金は相続の対象になります。ただ、あらかじめ相続対策をしておかないと、問題が発生する場合も。対策を立てるタイミングに早すぎることはありません。状況が変われば、対策をバージョンアップさせていきましょう。よりよい関わり方を考え続けることが大切です」(八束さん)
「親のお金」対策のカギは、
コミュニケーション
口座やパスワードなど情報整理は書き出して
では、紹介した「対策をしている」という読者は、どのように取り組んでいるのでしょう。
「いざというときのお金の使いみちを聞いている」(Tさん/31歳)、「通帳など、大切なものの保管場所を把握しています。もしもの場合にどうしてほしいかも話し合いました」(Mさん/31歳)、「親から資産の運用について相談され、いろいろな金融商品を調べたり、手続きにも同伴しました」(Mさん/57歳)など、さまざまです。
まず、押さえておきたいのは、親が持ち合わせている現金、銀行などの金融機関の口座、保険の保障内容、通帳や証券、印鑑の保管場所。「ネットバンクやネット証券の場合は、インターネット上だけで取引が完結するため、通帳や証券といった証明するものがありません。その上、パソコンやスマートフォンのアプリを利用するため、パスワードが分かっていないと手続きのしようがなくなります」(八束さん)。
これらの情報をノートに書き出しておき、時々は見返すのがよさそうです。下記の「チェックしておきたい『親のお金』」を参考に、親子で共有しておきましょう。
チェックしておきたい「親のお金」
- 持ち合わせている現金
- 銀行など金融機関の口座番号と残額
- 保険の保障内容
- 通帳、証券、印鑑の保管場所
- パソコンやスマートフォンのパスワード
- ネット証券・ネットバンクの取引とパスワード
子ども側のスタンスは「親のことが心配」
とはいえ、正直なところ「お金のことは親とは話しにくい」(Bさん/38歳)という人も多数。前述の「対策をとっている」読者の多くは、親の方から話を持ち掛けられたようです。
「子どもの方からはなかなか言い出せずにいたら、親が『リストアップしたから』と言ってきました。加入している保険の種類、保険証のしまい場所、預貯金や重要書類などの説明を受けています」(Tさん/58歳)というケースも。
一方、子どもの方から聞くときは、「急に検査入院することになり、入院手続きの書類を書くときに質問しました」(Hさん/44歳)と、チャンスを逃さないことが重要なよう。また「親にエンディングノートを渡しました。少しずつ書いているようです」(Yさん/34歳)といったように、積極的な作戦が功を奏することも。
八束さんは「エンディングノートは押さえておきたいことがまとまっているので、資産の整理に役立ちます」とのこと。
「年を取ると、判断力や体力が落ちてちょっとしたことが面倒だったり、意固地になりやすいことも。そんなときは、『親のことが心配』というスタンスで臨むことが大切です。いきなり、露骨にお金のことを聞くのがためらわれるなら、例えば、『友人Aさんの親御さんが認知症になってしまって、銀行や保険の手続きが大変なんだって』といった話題をふりながら、親の考えを聞き出すのも一手です。
一緒に考え、コミュニケーションを重ねていくことで、親にとっても子どもにとっても、よい方策が見いだせるのではないでしょうか」
読者の対策法
- 親から
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- 父は亡くなる前に、自身で財産、保険、自宅の売買参考資料などを整理したファイルを作成。それを父から託されました。母は、その資料を元に自宅を売却。自立型高齢者マンションに入居したのですが、残された家族がきちんと分かるようにまとめておくことが大切と感じました(Tさん/58歳)
- 母親から葬儀費用や遺産について聞かされました。なるべく子どもには面倒をかけず、自分の事は自分でするという考えだったようです。もちろん、私にできることはするつもりでいますが、負担に感じていた部分が少し軽くなりました。母親と今後も話し合っていきたいと思います(Nさん/31歳)
- 子から
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- 入退院を繰り返していた母。出歩くのが不自由になったので、キャッシュカードを預かりました。依頼されたときにお金を引き出し、記帳した通帳も見せて現金を渡すようにしています(Hさん/65歳)
- 実家の近所の人が亡くなり、遺族が持ち家を処分。親がその様子を目の当たりにして不安になり、自宅やお墓の相談を受けました。やっと動いてくれる感じになったので、勇気をだして尋ねました(Yさん/52歳)
この人に聞きました!
- 八束和音さん
- ファイナンシャル・プランナー。「かけいぼ診断」コーナーで活躍
判断能力があるときは「委任契約」
判断能力が低下したら「任意後見契約」
銀行口座の窓口などで認知能力が疑われると、名義人の口座が凍結されることがあります。銀行にとってはトラブル回避のための処置ですが、名義人の口座に振り込まれた年金が引き出せなくなり、医療費や生活費を家族が負担することも。そうなる前の対策法を専門家に聞きました。
「親の代理人として子どもが銀行や病院などで手続きができる制度があります」とは、大津公証役場の公証人・白髭博文さん。認知症などで判断能力が低下する前なら「委任契約」が、判断能力が低下した際には「任意後見契約」があり、いずれも公証役場で公証人の立ち会いのもとで公正証書を作成します。
「委任者である親の意思で選んだ受任者(後見人)の子どもが行えるのは、生活支援・療養看護・財産管理事務の三つ。生活にかかわることは、ほぼ網羅しています」(白髭さん)
近ごろは「委任契約」と「任意後見契約」の両方を同時に締結するケースが9割以上なのだとか。それは、認知症の進行状況に応じて「委任契約」から「任意後見契約」へと切り替えることができて便利だからです。
「親が判断能力を失った後は、親族が家庭裁判所に申し立てて『法定後見制度』を使うことで法的に保護することも可能ですが、後見人は裁判所が選びます。収益物件を保有している場合は、受任者に資産の管理や運用を任せる『家族信託』も選択肢の一つになるでしょう」
公正証書は、当事者の要望をもとに公証人が作成します。「これからの時代、この契約は、親子関係のサポート役になると思います」(白髭さん)
「委任契約」「任意後見契約」を結ぶには
- ①委任者(親)は、自分を支えてくれる人を選定
- ②契約内容を相談し、公正証書が作成されます
- ③公証人から法務局へ、後見人の登記を依頼
〈必要な書類〉
- 委任者(親)
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- ・本人の印鑑登録証明
- ・本人の戸籍謄本
- ・本人の住民票
- 受任者(子)
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- ・本人の印鑑登録証明書
- ・本人の住民票
教えてくれたのは
- 白髭博文さん
- 大津公証役場公証人。元検事。リビング主催「終活セミナー」にも登場