堅田で生まれた 治郎兵衛(じろべ)の手作り豆腐
3月3日は桃の節句、5月5日は端午の節句(菖蒲=しょうぶ=の節句)。9月9日も節句の一つって知っていましたか? 今年は「重陽(ちょうよう)の節句」(別名「菊の節句」)を暮らしに取り入れて、風流に過ごしてみませんか。
重陽の節句は菊で邪気を払う日
現代ではなじみの薄くなってしまった重陽の節句ですが、「これも5月5日などと同じ、節句の一つです」と教えてくれたのは、天台真盛宗(てんだいしんせいしゅう)総本山西教寺(大津市坂本)の寺崎豐好(ほうこう)さん。
「節句はもともと中国伝来の考え方で、奇数が〝陽〟を表す数だったことから、それが重なる月日に災いやけがれなどの邪気を払ったことが由来。中でも一番大きな陽である9が重なる9月9日〝重陽〟の節句は、古来〝霊薬〟とされていた菊を用いて健康と長寿を祈る日だったことから、菊の節句とも呼ばれます」。旧暦では現在の10~11月ごろにあたり、ちょうど菊が咲く時季だったそう。
高所で菊酒を飲み、
健康と長寿を願う
- 菊酒や菊寿司、菊なますなど、伝統野菜の「坂本菊」を使用した「菊御膳」の料理の数々(1人前2700円)
- 西教寺の重陽節句会で菊酒をふるまう様子。多くの人に親しんでもらえるよう、ライブ演奏なども
ところで、重陽の節句では何か特別なことをするのでしょうか。
寺崎さんに聞いてみると、「今はあまり行われていませんが、昔は中国故事にならい、薬木の実である呉茱萸(ごしゅゆ)を入れた袋を腕などにさげ、小高い場所で菊酒(きくざけ)を飲んで邪気を払っていたようです」とのこと。
他には、節句前夜、菊花に綿をかぶせ、翌日綿に染み込んだ露で体を拭う『着せ綿(わた)』という習わしや、菊の歌合わせやうたげなどもあったのだとか。
西教寺では節句会も
ちなみに西教寺では、毎年9月9日に「重陽節句会(せっくえ)」(写真右下)を開催。本殿の東西南北の柱には呉茱萸袋がくくりつけられ、参拝者には1年漬け込んだ菊酒がふるまわれます。御詠歌や菊茶のお点前なども奉納。「当寺は丘陵地の上にあるので故事にならった邪気払いができますよ」
また、11月には「菊御膳」(写真右上)も提供。「本当は9月9日に出せたら良いのですが、菊の旬とずれてしまうので」と、残念そう。
西教寺=TEL:077(578)0013
家で菊を気軽に食すなら
- 坂本菊を使ったてんぷら。小ぶりの花をまるごと揚げるので、見た目も華やか
- 菊のおひたし。味付けはドレッシングなど好みのものを
重陽の節句にあやかって、「わが家でも菊を食べてみたい」という人のために、気軽に菊をいただく方法を「坂本菊」を研究する龍谷大学農学部教授の佐藤茂さんに聞きました。
「重陽の節句にいただくなら菊酒を。果実酒と同様、ホワイトリカーに氷砂糖を加えて花を漬け込んでもいいですし、清酒に花びらを数枚散らすだけでも風流な気分を味わえます」
また、「重陽の節句の料理ではないけれど」と前置きした上で、「大根おろしに混ぜたり、汁物などに使うと彩りが華やかになりますし、おひたしやかき揚げにしてもおいしく食べられます」とも。菊自体は味が薄いため、用途は多彩なのだとか。
「旬の時季に菊をゆがいて絞ったものを凍らせておく、または乾燥品(主に東北地方で販売)を使えば、好きな時にいただけます」。これなら節句当日に味わえそうですね。
雛人形に託す〝身のけがれ〟
- ▲菊がモチーフの重陽雛
▶菊の造花に綿をかぶせて着せ綿にしたもの。綿のかぶせ方はさまざま
重陽の節句には雛(ひな)人形を飾る風習もあると聞き、草津市で人形巧房「ひなや」を営む女流人形作家の東之華(とうか)さんに話を聞きました。
「『後(のち)の雛』ですね。昔から人形には、身代わりに厄を持ってゆく〝払い〟の役割がありました。そのため、桃の節句から半年後の重陽の節句に飾ることは、再度身に付いたけがれを払う意味合いがあるんです」
ただし、桃の節句と異なり、男女問わない大人の行事なのだとか。
「飾る期間は特に決まっていないので、節句の日から1カ月くらい、ゆっくり飾って楽しんでください。もしあれば、白酒の代わりに菊酒、桃や橘(たちばな)の代わりに菊を一緒に飾るといいですよ。その際、菊の花にはふわりと綿をかぶせて着せ綿にしても」
飾るのは手持ちの雛人形で良いそうですが、東之華さんは特別に〝重陽雛〟も製作。「平安時代は季節感ある着こなしが大事だったので、秋らしく菊を表す色のかさねにしています」。落ち着いた色合いなので、大人でも飾りやすいかも。
「節句に用いられるのは菊やショウブなど、香りの強い植物。香りは〝魔を遠ざける〟とされ、払いの効果が高いと考えられてきました」。キク科のアロマなどで、重陽の節句を自由に楽しんでもいいかもしれませんね。
「ちょっとしたしつらえでいいので、日本の風習や文化を取り入れてみてください。四季を楽しむ心のゆとりが生まれますよ」
人形巧房 ひなや=TEL:077(563)8900
県内の和菓子店でも菊の節句にちなんだ和菓子が登場します。
菊の花に見立てたサクサクの最中(もなか)。地元近江の滋賀羽二重糯(もち)を使った皮に、自分で餡(あん)を入れていただきます。餡はつぶ餡と白つぶ餡、ゴマ餡の3種。5個入り864円で、秋の銘菓として9月1日~下旬に販売予定。包装も菊デザインの華やかなもので、人にあげても喜ばれそう。
たねや=フリーダイヤル:0120(295)999
じょうよ芋の練り切りでこし餡を包んだ、「着せ綿」モチーフの上生菓子。9月に、大津市大石にある「寿長生(すない)の郷」の「和菓子づくり教室」で、この菓子を含む2種類(3個)を作れます。1人2700円、要予約。昼食付きのプランもあり。一般販売はないので、この機会に手作りに挑戦しては。
叶 匠壽庵(かのう しょうじゅあん)
寿長生の郷=TEL:077(546)3131
※写真はイメージ