十一月のマーブル
森乃おと/著 ささきみえこ/絵 雷鳥社(1500円・税別)
虫が戸をあけ、桃は笑う
四季のある日本では、季節の移ろいへの細やかな視点から生まれたとても美しい暦があります。 一年を24区分した「二十四節季」を、さらにひと区分につき三つに分けた「七十二候(しちじゅうにこう)」と呼ばれるものです。一つの候はわずか五日ほど。そのわずかな間の季節の兆しが巧みに切り取られ、情緒豊かな言葉で表されています。
本書で、その「七十二候」をなぞってみれば、各候への丁寧な解説と共にそれぞれの季語や花なども紹介され、和やかなタッチのイラストと相まって、イメージがどんどん膨らんでいきます。
この二、三月は春。さまざまなものがそっと動きだす季節。そこで「蟄虫戸(すごもりのむしと)を啓(ひら)」き、「桃始めて笑」うのです。温かくもユーモラスな視点に春の喜びが手に取るようです。
この一年は、素敵な言葉で季節をひとめぐりしてみては。
紹介者:野洲図書館/武藤佳央理さん