車の警告灯が点灯したら
コロナ禍でのステイホームの影響か、昨年はペットを飼い始めた人が多かったとか。一方で、近頃はペットの平均寿命が延びた分、動物を飼うにあたってはさまざまな心構えがよりいっそう必要とも。ペットを飼っている人もいない人も、一度考えてみませんか。
イラスト/かわすみみわこ
平均寿命が延びているのはなぜ?
下のグラフにもある通り、日本で飼われている犬と猫の平均寿命はゆるやかに延びています。その原因とは…?
「一つは獣医療技術の向上。またペットフードの改良などにより、栄養バランスの良い食事や特定の病気に推奨される食事も提供しやすくなりました。さらに、ペットは家族の一員という認識が広まり、室内飼いや早期受診をする人が増えたことも大きいです」と話すのは、滋賀県獣医師会会長で「柴山動物病院」院長の柴山隆史さん。
ちなみに、平均寿命が延びているだけでなく「科学技術の進歩により、原因不明とされてきた多くの治療困難な疾患が遺伝性疾患であることが解明されたため、今後繁殖の適正化などによって健康寿命がさらに延びることが期待されています」とも。
一般社団法人日本ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査」をもとに作成
介護や通院なども視野に
17歳の猫を1匹飼っています。それまでにも4匹飼っていて、みんな20歳前後まで生きました。一番長生きだった子は晩年認知症になり、昼夜大きな声で鳴くというか吠える(1日40回以上)ので、睡眠時間が短くなり、イライラしました。
今飼っている子も介護中。歯から菌が入って下あごから出血し、片頬も腫れ、切開しました。平衡感覚にも異常が出てすぐ転ぶので、家具の角などをガードしています。子どもが夜、私が昼間見ています(草津市・匿名希望)
とはいえ、やはりペットが長生きすると、病気や介護の問題は避けられないとも柴山さんは言います。
「高齢で発症する疾患は、心臓病、腎臓病、腫瘍のような慢性進行性で完治が難しい疾患が多いので、治療期間は長期に、費用は高額になりがちです。このほか認知機能障害が出ると、治療というより日常の世話が欠かせなくなります。また、大きな動物の場合、寝たきりなどになると介護は想像以上に大変」。上のお便りを見ても、人のそれと同様、ペットの介護も一筋縄ではいかないことが伺えます。
また、飼い主側の体力低下や病気、高齢化により、ペットを長期間世話することが難しくなるケースも。そこで次に、ペットを飼いたい人、飼っている人が心がけておきたいこととは何かを考えます。
飼いたくなったら、飼い始めたら
ペットを飼う前、あるいは飼ってから、心がけておきたいこととは?
「飼う前に、成犬・成猫になったときの体格や必要な食事内容など、その動物の特徴や習性などを理解し、本当に飼い続けられるかどうかを考えるのは基本です。また、動物種や品種によってかかりやすい病気もあります。飼い始めてからもペットの健康状態に気を付け、かかりやすい病気については正確な情報を得ましょう」
飼育費用の準備も大事。「ペット保険も多数ありますが、保険の適用される内容は保険会社によってさまざまで上限もあるので、それだけでは十分でない場合も。治療費や健康維持にかかる費用をあらかじめ準備しておくのがベター」
今から「もしも」を考えよう
さらに、昨今は新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、「もし飼い主が感染したら、ペットの世話を誰に頼むのか」について考えておく必要も出てきました。「このように、自身の健康や高齢化だけでなく、災害時や不慮の事態に備える意味でも、ペットを飼い始めた時から、信頼して預けられる人や施設を考えて」と柴山さん。
こうしたさまざまな「もしも」に備えるには―? 次の記事では、自らも大の猫好きという行政書士の女性に話を聞きました。
わが家のコタローはこの春で18歳。数年前までは毎日2時間は散歩し、ほかのワンコにどんどんあいさつしてお友達を増やしていました。おかげで飼い主同士も「犬友」となり、コタローといると、声をかけられることや自宅にお呼ばれされることもありました。
ここ数年でよぼよぼのおじいちゃんになりましたが、今も毎日ゆっくりとお散歩しています。ご近所のシニア世代の方々には「一緒に頑張ろうね」と言われ、お友達に会いに行けないかわりに、若いワンコが家まで会いに来てくれます。
コタローくんが来てくれたから、私たちはいろんな人と出会うことができました。さて、今日も行きましょうか! 今日は誰に出会うかな? (草津市・SK)
「もし私が〝うちの子〟より先に逝ってしまったら」「自分が認知症になったら」など、ペットが残されてしまった場合を心配する飼い主のために、近年「ペットのための信託」という選択肢が登場しています。
「『ペットが自分より長生きしそう』という人が、ペットのためにできる〝終活〟の方法はいろいろあります」と話すのは、守山市の「かおる行政書士事務所」の中島かおるさん。例えば、遺言書に「この財産をAさんにあげる代わりに、私のペットを世話してほしい」といったことを(適正な書式で)記しておくのも一つ。
「ですが、この方法には弱点も。飼い主の存命中は遺言の効力が発生しないため、飼い主の入院時や施設入所時には適用できません。ほかにも、遺産を分割で渡すのが難しいため、ペットの世話はされないまま遺産だけ使い込まれるリスクなども」
そこで、新たに登場したのが「ペットのための信託」。民事信託の一つで、しくみは上図の通り。飼い主の入院時などにも信託を開始できたり、監督人を置いてペットの状況や飼育費の支払いに問題が生じていないかをチェックできるなど、柔軟に工夫がしやすいそう。
一方で、誕生してまだ間もない仕組みである分、現状では課題も。「司法書士や税理士、行政書士など複数の専門家が関わって飼い主の状況に合った方法を検討する分、ペットのために残す飼育費とは別に、各専門家への報酬はかさみがち。また、飼い主は財産を管理する人と信託契約を結び、金融機関に飼育費を入れるための信託口座を開設するのが一般的ですが、それに対応できる銀行もまだ多くはありません。専門家に相談しながら実現可能な方法を探る必要があります」
ちなみに、現在猫5匹と暮らしている中島さんも「今から準備していること」があるそう(下表)。「万一のことが起こってからでは、大切なペットを守れないかも。いつから始めても、早すぎることはないですよ!」
今から準備しておきたいこと
1.飼育費をいくら残すか計画を
ペットの食事、おやつ、医療費、おもちゃなど、まずは現在の年間飼育費を計算して。そこから「〇年分残そう」「もし病気になった時の費用も上乗せしよう」といった具合に、残すお金を考えて
2.万一のとき託せる人・施設を探そう
「家族が面倒を見てくれる〝はず〟」は厳禁。本当にそれが可能かどうか、家族の意思を確認して。むしろ動物好きの仲間のほうが適任な場合も(もちろん、お願いした相手に迷惑をかけないよう配慮するのが大前提です)
3.「犬友」「猫友」を作ろう
動物好きな仲間との良い関係を築きましょう。散歩、譲渡会などのイベント、SNSなど、交流の場はいろいろ。小さなことでも一人で悩まず、相談できる人をつくっておくのがおすすめ。