「何が何でも滑りたい」【こそだてDAYS】
イラスト/オカモトチアキ 紙面協力/京都リビング新聞社
声をかけてくれたことに感謝して、自分の事情をきちんと説明
継続する付き合いの場合
「ときには断ることもある」と認識してもらいましょう
「義理の母たちからの買い物やランチの誘い。関係上断るわけにもいかないので、気が乗らないときもOKしてしまいます」(ぴよママ・42歳)
配偶者の家族は関係性が近く、長く継続して付き合っていく間柄。とはいえ、断りたいときもありますね。こんなときは、どうすれば?
大谷大学教育学部の教授・田中久美子さんに聞きました。
「『行きたくない』という自分の気持ちを大切にしても良いと思います。ただ、急に全く行かなくなるのは極端。人間関係が断ち切れてしまいます。何回かに1回断るなど、徐々に減らしてみては。そうすると、相手も『行けないときもあるのだな』と認識してくれます」
気を使うのは断り方。まずは、相手を尊重することが大切だそう。
「誘ってくれたことに感謝していることを伝えましょう。その上で、行けない理由を。相手のことが嫌いで断っているのではなく、『体調がすぐれない』『しなければならないことがある』というように、自分の側に事情があることを説明して、『また誘って』と言えば角は立ちません」
オーバーワークになる場合
受けることで迷惑をかけることも。冷静に状況判断を
りのあやママさん(56歳)は、仕事を頼まれると、断れないタイプ。
「職場で『これ得意分野だよね』と言われると、今持っている仕事で手いっぱいなのに、『大丈夫』と、安請け合いしてしまいます。その後、残業や家に持ち帰っての仕事になり、後悔…」とのこと。
田中さんによると、「すぐに返事をしなくて良いなら、『検討させてください』と言って、仕事量や置かれている状況を整理してから返事をしては。許容範囲を超えていたら、締め切りに遅れたり、中途半端な内容になってしまうかも。そうなると、依頼した人も困りますし、自分の評価を下げてしまう可能性もあります。それよりは、状況を説明して断るほうがよいでしょう」とのこと。
ここでも断り方には注意が必要。ポイントは、〝返答のスピード〟と〝前向きな検討〟と田中さん。
「『やってくれるのかな?』と期待させる時間のあけ方はよくありません。できるだけ早く回答を。一部だけでも手伝えそうなのであれば、そのことも伝えて。自分のできる関わり方を提案すれば、依頼者も『前向きに考えてくれた』と感じて、良好な人間関係を保てます」
大谷大学教育学部
教授 田中久美子さん
「あいまいな態度では、相手にも、自分にもよくありません。相手との関係性から、何を大事にしたいか考えて返事を」
飲み会、町内の役。
断りたいシーンはほかにも…
「飲み会のお誘い。みんながその日を開けているので、自分だけ断りにくい」(はな・47歳)と〝みんなで〟参加する雰囲気のものは断りにくいとの声もありました。
「大人数であれば、1対1の誘いよりも関係性が薄く、行かなかったからといって不利益を被ることもないでしょう。自分の気持ちを大切にして」と田中さん。
断る理由はこちらも、〝自分の事情〟で。
「といっても、習いごとなどの自分磨きや、家族とのお出かけといった生活の充実ぶりをうかがわせる内容は、『そちらを選んだ』と思われてしまうことも。また、家族の世話などは、『私たちも都合をつけているのに』と、よくない印象を持たれてしまう可能性があります。相手を刺激しないよう気を付けて」
こまぐろさん(44歳)は、「町内会の役を上手に断れませんでした。数年で終わるかなと思っていたのですが、かなり長くなりそう」という経験が。自治会も、この先も継続する関係なので断りにくいですね。
「適性を評価して、依頼されているのだと思いますので、その評価はありがたいと、まずは相手を立てて返事を。その上で、断る場合はやはり〝自分の事情〟を説明するのが良いと思います。引き受ける場合でも、○年ならできる、こういう事情でできないこともあるなど、あらかじめ話しておくほうがいいでしょう」
相手を思いやって断わることが、コミュニケーションスキルとのこと。また、必要に応じて断ることも同様と田中さん。
「〝アサーション〟と呼ばれる表現の方法ですが、主張する場合は、自分と他者、両方を大事にしなくてはなりません」
田中さんによると、断るのが苦手な人は他者を尊重しすぎるタイプ。その結果、自分が負担を感じるのは自分を大切にできていないということだとか。一方、「嫌だから行かない」という断り方では他者を尊重できていないことになるそうですよ。
読者の
「こんな断られ方は嫌!」
- ●クラス委員をしていたとき。役をくじで決めたものの、後になって「無理です」とメールが来た。どうせなら、決まったときに言ってほしかった(ぴよママ・42歳)
- ●遠方の友達から「京都へ遊びに行くかも。近づいたら連絡するね」と言われていたのに、それから音沙汰なし。こちらから連絡すると、「やっぱり行けなくなった」とのこと。心積もりをしていたので、落ち込みました。せめて向こうから連絡してきてくれたら…(MS・26歳)
- ●宴会の当日キャンセル。幹事だったら、お店との連絡に追われてしまう(マクドナルド・52歳)
- ●誘ったときに、「うーん、また今度にしようかなー」とあいまいな返事をされました。はっきりしてほしい(MHB48・48歳)
- ●食事の約束をしていた友人が、当日になって「ごめん、忘れていた!」とドタキャン。しかし別の人から聞いた話によると、遠方から友人が来ていて久しぶりに会うことになったのだそう。正直に言ってくれた方が良かった(YK・48歳)
一度決断したら気持ちを切り替えて、前向きに捉えて
受けてしまった場合
思わぬことが、チャレンジのきっかけに
断われずに、仕方なくOKしてしまうこともありますね。そんなときは、「断ればよかった」という気持ちを引きずらないほうがよいそう。
「断る、断らない、どちらかを選択したら、そちらに気持ちを切り替えて。やることになったのであれば、そのなかで何が楽しめるか、何ができるかを考えてみてください」(田中さん)
断らなかったことが、意外と良い結果を生むこともあります。そんな経験をしたのは、CKさん(40歳)です。
「仕事関係の人にマラソン大会に誘われ、その場のノリで出場することに。長年運動はしていませんでしたが、練習していくうちにだんだんと楽しくなり、健康的な毎日に。今では誘ってくれた人に感謝しています」
この場合、CKさんは、もともと運動することに関心を持っていたのではないかと田中さんは推測。
「『健康のために、運動をしたい』というような気持ちが潜在的にあったものの、きっかけがなかったり、やり始めるのに二の足を踏んでいたりしていたのかもしれません。そんなとき、ちょうど引っ張り出してもらえるお誘いがあったのでしょう」
確かに、何かに誘われて、「ちょっと行ってみてもいいかな」と迷うこともありますね。そんな、全面的にNOではない場合には、やってみるのも良いとのこと。それで「嫌だな」と思ったら、「次からはやめよう」という判断材料になるのだそう。
不要なものを整理する〝断舎離〟になぞらえて、「人間関係の断舎離」も近頃よく言われています。人付き合いをどのように整理すればよいか、ハートフルサポートcocomadoの代表で、臨床心理士の大槻まどかさんに教えてもらいました。
「断るのは失礼」「付き合いがあるから」という気持ちで受けていた誘いを〝断捨離〟の観点で考えてみると━。
「その人と会って話をしたとき、『また会いたい』と思うかどうかを基準に考えてみてください」
会うことで前向きな気持ちになれたり、ワクワクしたり、刺激を受けたりする、プラスな関係性を築くことができるのが、「また会いたい」人。
「もし、そうでないのであれば、適切な距離を保った方がよい人かも。断舎離といっても、『もう付き合いません』と宣言するわけではありません。仕事上会うのであれば、仕事の話だけに話題をとどめたり、誘われても断る回数を増やしたり。自分の気持ちが振り回されないようにすればよいのです」と大槻さん。
「お互いに思いやれる関係性は心地よいもの。本音で付き合っている人なら、『今回は行けない』と断ることもできるでしょう。無理をして付き合っているということを自覚することが、断捨離の第一歩かもしれません」
ハートフルサポート
cocomado代表
臨床心理士
大槻まどかさん」