〝聞こえの悩み〟に補聴器という選択肢を。新日本補聴器センターを見学してきた
認知症の家族の介護に携わる読者に、関わり方の成功・失敗体験を聞きました。近年注目されているコミュニケーション法「バリデーション」の視点から、関西福祉科学大学教授の都村尚子さんのアドバイスも紹介。ともに幸福感を感じられる関わり方とは? これからのヒントにしてください。紙面協力/サンケイリビング新聞社
トイレの失敗を「自分ではない」と言うので、否定せず「そうですね」とシーツを替えていたら、夜、安心して眠ってくれるように。
59歳(義母90歳)
「ご飯がほしい」と言うので「もう食べたよ」と返事をしたら、暑い日に冷蔵庫の中の物を全部テーブルに出してしまった。
57歳(実母87歳)
- アドバイス
- 以前「ご飯を食べていない」と言う方に「おなかのどのあたりがすいているんですか」と聞くと、「足の先まで全部だ」と答えられ、驚いたことがありました。満たされない気持ちをくんで、「ほしいんですね」「足りないのはつらいですね」と共感していくことで、お母さまの言動も変わっていくはずです。
詐欺に引っかかりそうになったので叱ると、都合の悪いことは隠すようになった。
52歳(実父84歳)
- アドバイス
- 一番頼りない気持ちになっているのは、お父さまご本人。今後、隠されては本当に困ることも出てきます。「怖かったですね」と声をかけ、恐怖を分かち合ってくれる存在であることを示してください。
施設の義母が「帰りたい」と言うので、「帰りたいなぁ」と受け止めて面会を増やしているうちに、「ここが一番いいとこや」と言ってくれるように。
56歳(義母81歳)
お金の話をするとき、「若い時から高い年金を払ってきて、大変だったでしょう」と言うと、「そやそや」と笑って納得してくれる。
59歳(義母90歳)
部屋の掃除を勧めると、意固地になって前より汚部屋になった。
53歳(義母85歳)
- アドバイス
- 掃除や片付けは、認知症が進行するにつれてハードルが高くなります。「キレイになると気持ちがいいですね」などと声をかけながら、ご家族で行うようにしてください。
「共感」を軸としたコミュニケーションを
「バリデーション」とは、アメリカのソーシャルワーカーが考案した認知症高齢者とのコミュニケーション技法です。特徴は、認知症の方の「感情」に寄り添うこと。たとえば、「物を盗まれた」といった訴えに対しては、事実を確認したり、一緒になって探すのではなく、「盗まれたんですね」「それは困りましたね」と相手に表情や呼吸を合わせながら、「共感」を軸にコミュニケーションを進めていきます。
認知症によって生じる不安や怒りといったマイナスの感情にフタをされるのではなく、表に出すことを許され、共感を得られることにより、お年寄りに「ここまで生きてきてよかった」という感情を抱いてもらうことが可能になります。また、私たちは人を〝受け容れる〟ことの意味を深く知ることができるのです。
相手の感情に
寄り添うことが大切です
- 関西福祉科学大学 社会福祉学部
教授 都村尚子さん - 激増する認知症高齢者への支援について研究。
バリデーションの普及・人材育成に取り組む
- Q
- 知人を泥棒扱いします。この状態を改善するには?
- 62歳(実母91歳)
- A
- 大事なものを失った気持ちを受け止めて
- 「盗まれるのは本当に困るね。お母さんは○○さんが犯人だと思うのね」など、大事なものを失って困っている気持ちを受け止めて。一緒に探す演技をしたり、「あの人は泥棒じゃないよ」と言い含めるのは逆効果です。「盗まれなかったものは何?」「全部盗まれたらどうなる?」など反対や極端な質問で感情を引き出し、より深い共感につなげるテクニックもあります。
- Q
- テレビや外出に無関心に。どんなコミュニケーションをとれば?
- 56歳(実父82歳)
- A
- ちゃんと聞いてくれることが力に
- 今、何に困っているのかを聞いてみてください。まず「テレビはいらないんだね」「外出はしたくないね」と共感し、「どんなことが不安?」「嫌なことはある?」など、できるだけ丁寧な態度で聞きましょう。解決できるかどうかではなく、ちゃんと聞いてくれるということがお父さまの力となり、「あんたとやったら外出するわ」とおっしゃる可能性もあると思います。
- Q
- 物忘れの多さにイライラしてきつい言葉をぶつけてしまいます…
- 55歳(義母90歳)
- A
- 感情のキャッチボールを心がけて
- 事実確認ばかりをしていませんか? 言ったか言っていないか、食べたか食べていないか、何が事実かが抜け落ちていくのが認知症という病気です。頭を切り替えて、何が苦しいのか、何がうれしいのかなど、感情のキャッチボールを心がけてみてください。認知症になってもずっと感情は残るため、この方法なら初期から最期までコミュニケーションをとることができます。
- Q
- 意欲低下や食欲不振でしんどそう。笑顔になってもらうには?
- 35歳(祖母90歳)
- A
- 無理に引っ張り上げようとしない
- 「おばあちゃん元気出してね」と笑顔で声をかけているかもしれませんが、認知症の方の場合、無理に引っ張り上げようとせず、寄り添うことが大事。相手が苦しそうなら、同じように苦しい表情をつくり「しんどいね」と声をかけてください。声のトーンは低く、はっきり。苦しさを共感してもらうことで、少し元気が出て、笑顔が出るかもしれません。
- Q
- ストーカーのように電話が…どうしたら減らせますか?
- 62歳(実母88歳)
- A
- 定期的に会いに行き、顔を見て話を
- 何度もかかってこないためにも、その場しのぎの返事ではなく「どうしても忙しい。今晩帰ったらかけるね」など、ゆっくりと丁寧に返事を。できれば定期的に会いに行き、顔を見て話をしてください。
from 都村さん
嘘をつかないほうがうまくいく
安易な励ましや、嘘で話を合わせるコミュニケーションが、認知症の方を幸せにすることはありません。「何だかわからないけれど、私はごまかされている」と不信感を抱かせると、その方は反抗し続けます。話に耳を傾け、不安や悲しみを分かち合い、「真の共感」を届けるコミュニケーションを始めてみてください。きっと介護者のあなた自身も、心が軽くなるはずですよ。