滋賀と京都のWithな関係
紙面協力/京都リビング新聞社
人間は毎日「疲れ」ます
夕方になると体がだるかったり、忘れっぽくなったり、やる気がでないなど、「疲れ」の感じ方はさまざま。肩こりや腰痛、目のかすみ、手足の冷え、食欲不振、胃痛など、体の不調として表れるケースもあります。
稲荷山武田病院うつ予防医療センター・センター長の森下茂さんによると「『疲れ』は、心身が回復のための休養を要している状態」と言います。
原因は、仕事や子育て、人間関係からくる〝精神的なストレス〟と、家事や運動などによる〝肉体的なストレス〟。日常生活と「疲れ」は切り離せない関係にあります。
「私たち人間は誰しも〝毎日〟疲れるのです。しかし、この『疲れ』は、適切な休養をとれば必ず回復します」
自律神経が乱れ、脳がオーバーヒート
「『疲れ』には、自律神経が大きくかかわっています」と森下さん。
自律神経は、身体の器官や組織の調節を行い、常に身体の機能を一定に保つ働きがありますが、自分の意思でコントロールすることができません。
「精神的・肉体的なストレスによって身体にかかる負荷に合わせ、自律神経も働き続けます。ストレスが大きいほど自律神経への負担は重くなり、自律神経の中枢がある脳がダメージを受けた結果、オーバーヒートを起こしてしまいます」
そして、「脳を正常な状態に戻し、心身のパワーを回復させるため、休養が必要と判断した脳から、『疲れ』という形で自己防衛のためのサインが出されるというわけなのです」と森下さん。
となると、一般的にいわれる「疲れがたまる」というのはどういう状態なのでしょうか?
「特殊な物質が〝蓄積〟していくイメージを持たれているかもしれませんが、ちょっと違います。回復していない状態で活動することにより、脳はオーバーヒートしたまま。そして心身のパワーも不足したままなので、『疲れ』のサインが出っ放しに。そのため、常に『疲れ』を感じているということになります」
とはいっても「『疲れ』を感知しているということは、休養すれば、必ず回復するということですから、がっかりしないでください」と森下さん。
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森下茂さん
稲荷山武田病院 うつ予防医療センター・センター長。50歳を越えたころから、睡眠の大切さを再認識し、規則正しい生活を実践。「若いときは体力でカバーしていたが、年齢が上がると無理がきかないと実感しています」
「睡眠」で、脳と肉体の回復を
1面で紹介したように、「疲れ」とかかわる自律神経。活動の源になる交感神経と、睡眠やリラックスといった休養をつかさどる副交感神経の2種類があります。
「日中は交感神経が優位で活動的になります。対して、夜間は、副交感神経が優位になり休養する状態に。交感神経と副交感神経が上手にバトンタッチすることで、心身のバランスが保たれています」
自律神経に負荷がかかると、交感神経と副交感神経のバランスがくずれてしまいます。つまり、「疲れ」を感じているときは、自律神経が乱れているということ。
そこで、回復のための休養をとって自律神経の乱れを整え、オーバーヒートした脳を正常な状態に戻すことが必要なのですが、「それができるのは睡眠だけです」と森下さん。
睡眠には、「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」があるのを聞いたことがある人は多いのでは。「レム睡眠」というのは、眠っていても眼球が動いていて眠りの浅い状態。一方の「ノンレム睡眠」は、眼球が動かずぐっすりと寝ている状態です。
眠りに入るとまず深い眠りのノンレム睡眠になり、次に浅い眠りのレム睡眠へ。およそ90分間隔でノンレム睡眠とレム睡眠を繰り返しているといわれています。
「ノンレム睡眠の間は脳が休養し、体は起きている状態になり寝返りをうったりします。レム睡眠に切り替わると、脳は夢を見るなど起きている状態ですが体は脱力していて筋肉が休養を取っています。
このノンレム睡眠とレム睡眠のサイクルを4回繰り返すことで、休養が取れて心身は回復します。回復に効果的な睡眠時間としては、6時間程度がおすすめです」
睡眠時間の長さをはじめ、生活スタイルを変えることはなかなか難しいかもしれません。
しかし、「『疲れ』を改善しておかないと、昼間の活動に支障をきたすようにもなります。なるべく決まった時間に布団に入り、ノンレム睡眠とレム睡眠を意識した睡眠時間の確保。そして、起床時間をはじめとした規則正しい生活リズムを、まずは3日間だけでも続けてみてください。それができたら1週間。さらに2週間と期間を延長。3カ月続けられれば、かなり『疲れ』は改善されているはずですよ」。
よい睡眠環境は自分でつくれる
「疲れ」の回復には、よい睡眠が必要。ということで、快適な睡眠と活動が行える生活環境について研究する立命館大学名誉教授で情報理工学部特別任用教授の萩原啓さんに、〝よい睡眠〟について教わりました。
「疲れをとるには、何よりも睡眠です。『すぐに眠れる』『ぐっすり眠れる』『すっきり目覚める』。これが大切です。自律神経は自分でコントロールできませんが、睡眠環境は自分でつくることができます。自分にとって快適な睡眠環境をつくり、よい睡眠を大切にすると、生体リズムが整います」
日々の「疲れ」を「睡眠」で回復させ、規則正しい生活を送ることで「疲れ」を引きずりにくい体へ。
次の四つのポイントを、できることから実践してみてくださいね。
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萩原啓さん
立命館大学情報理工学部特別任用教授・名誉教授。医学博士。メーカー勤務時代に住環境と健康器具にかかわる研究開発に携わり、大学へ。「昼間の活動状態はコントロールできるので、メリハリのある生活を送るように心がけています」
Point.1
寝室は暖色系照明で薄暗く、
好みで音楽や香りを
入眠に要する時間は、8~20分といわれているそうです。真っ暗や無音では、感覚が遮断されているため、かえって脳が過敏になるのだとか。眠りに入りやすくするため、音楽や香りを利用するのもよいでしょう。自分がリラックスできると思う好みのもので。
Point.2
寝る前に、体温を軽く上げる
40℃を超えないぐらいのぬるめのお風呂にゆっくりつかって体をあたためたり、軽くストレッチを行い血行をよくしておくとグッド。
体温を軽く上げてから寝入ると、最初のノンレム睡眠の度合いが深くなり、そのあとのレム睡眠も良好に。つまり、ストレスを受けた脳と体がより改善される結果に。ストレッチは、緊張して硬くなりやすい肩や腰回りの筋肉を伸ばすイメージで。ただし、熱いお風呂や激しい運動は、交感神経が興奮してしまうのでNG。
Point.3
活動は午前中が最適
運動や仕事など活発に動くなら午前中が最善。交感神経が優位に働き、副交感神経とのバトンタッチがよりスムーズに。また、精神的ストレスの度合いが高い場合は、積極的に動いて肉体的な疲れを意識して高めておくと、睡眠が深くなり、ひいては回復しやすくなります。
Point.4
起きたら日の光を浴びる
午前中に青白く2500ルクス以上の強い光を浴びることで、狂いがちな体内時計が正常な24時間サイクルに調整されます。ちなみに、薄曇りの日差しや窓際の太陽光でも1万ルクス以上。蛍光灯の光でも同じ効果が望めるとか。