滋賀の大学の学長からのメッセージ 変化の多い時代に“学ぶ”ということ
身近な存在となったスマートフォン(スマホ)やタブレット。動画や音楽、ゲームなどが簡単に楽しめ、小さな子どもが熱中して利用する場面もよく見かけます。そこで気になるのが〝目への影響〟。
医師に目の健康への影響や上手な使い方について質問。アドバイスをもらいました。協力/松山市医師会 紙面協力/えひめリビング新聞社
- 笹木眼科 院長笹木 昇 医師
- 子どもの目は
どのように成長するの?
人間の目や視力は、生まれてから大きく成長します。特に乳幼児期から学童期までの目には大きな違いがあり、眼球の大きさや視力は6歳くらいで大人と同じになります。
例えば、乳幼児の目は大人の目に比べて小さく、遠視の状態です。これは物を見たときのピントが目(網膜)よりも後方で合うため。このため、生後1カ月の視力は光が分かる程度です。6歳で物を見たときに網膜にピントが合う状態になります。
【子どもの目の成長】
視力の発達段階
生後1カ月 | 光 覚 |
---|---|
生後6カ月 | 0.04〜0.08 |
1 歳 | 0.2程度 |
3 歳 | 1.0程度 |
6 歳 | 1.0〜1.2程度 |
- スマホを見ているとき、
目では何が起こってる?
目にとって近くを見ることは、〝緊張し、疲れやすくなっている状態〟です。
人間の目はカメラに似た構造をしています。「水晶体」はレンズの役割をしますが、レンズの厚みを変えるのが水晶体を取り囲む「毛様体筋」。この筋肉は近くを見るときに収縮(力が入った状態)し、水晶体を厚くさせ、網膜にピントの合った像を写す働きをします。
同時に両目の瞳孔(黒目)は、内側に動き〝より目〟になります。この眼球の動きを輻輳(ふくそう)運動と言い、眼球を内側に回すように動かす筋肉「内直筋」が収縮します。スマホを見ている間は至近距離でピントを合わせ続けることになり、毛様体筋と内直筋が収縮する状態が続くことになります。
- 長時間スマホを使用し続けると
どうなるの?
長時間使用は、毛様体筋と内直筋に負担を掛けるため、眼精疲労になります。また、画面に集中すると、まばたきの回数が減ります。まばたきの際に涙が分泌されるので、涙も自然と減少。目の乾きで物が見えにくくなり、さらに毛様体筋を疲労させます。毛様体筋に力が入りっぱなしになり、凝り固まると、遠くが見えにくくなり『近視』になります。
「ドライアイ」も誘引される病気の1つです。長時間モニターを見たり、コンタクトレンズを長時間装用すると目にストレスがかかり、涙の質が低下。涙が早く蒸発してしまい、目の表面が乾燥します。
現在、話題になっている「スマホ内斜視」は、眼球を内側に動かす内直筋が凝り固まってしまい、目が外側に寄らなくなる病気です。物が二重に見える症状が出ます。
いずれも年齢に関わらず起こり得ますが、目の機能が完成していない乳幼児期や学童期の子どもたちは、特に影響を受けやすいと考えられます。
影響されると
考えられる疾患
- ①眼精疲労
- ②近視
- ③ドライアイ
- ④スマホ内斜視
- 目のために
注意すべきことは?
これまでの報告から、週4~5日以上、1日4時間連続でスマホを使用するような状況では、目の健康に影響し、疾患に至ると考えられます。現在、公的なガイドラインはなく、厚生労働省の「VDT作業における労働衛生管理のガイドライン」から考えると注意点は「明るさ」「使用時間」「距離・姿勢」「湿度」に分けられます。
このほか、画面が小さいほど目は疲れやすく、例えば、同じ条件で長時間見た際、画面が小さい方が内斜視になりやすいという報告もあります。
- 明るさ
- ●周囲の明るさが一定の場所で使用する
- ●暗い場所で使用しない
- ●消灯後、布団の中でスマホを使用しない
- ●明るさが変化する屋外や振動で視線が定まらない場所での使用は避ける(歩きスマホも)
- 時 間
- ●1回の使用時間は45分~1時間程度に
- ●1日の使用時間は長くても4時間が限度(毎日はNG)
- ●スマホから目を離し、遠くを数分見る休憩を取る
- 湿 度
- ●湿度は50%前後を確保
- ●エアコンなどの風が直接当たらないようにする
- 距離・姿勢
- ●モニターと目との距離は30cm以上離す
- ●モニター画面は目の高さより少し下の位置に(10度くらい下方)
- ●寝転んで使用しない(横になると30cm以上距離を取り続けることが難しいので)
- スマホ使用のルールづくり
どうしたらいい?
子どもが小さいうちは、親が使用時間や頻度をコントロールする必要があります。
大きくなってくると、楽しいことに対して制限を掛けられたと感じ、理由も分からないままルール決めをしても納得できず実行しません。目にどんな変化が起こるか、どんな病気で困ることになるか、病気を予防するにはどう使っていくと良いかを話してあげることが大切です。
また、スマホ以外に子どもが興味を持って行うもの(外遊び、スポーツ、習い事、ボランティアなど)を生活に取り入れるのもいいと思います。
乳幼児期のスマホ育児、
どう考える?
家事で忙しいときや外出先でおとなしくして欲しいとき。スマホを子どもに与え、やり過ごす経験をした人も多いのでは。
現在小さな子どものいる親は、「スマホ育児」を初めて行う世代です。スマホに頼っていいのか、使うなら、どのような使い方が適当なのか、眼科医の視点で教えてもらいました。
- スマホの目への影響について、まだ確立したデータがありません。ただし、乳児は視力が未熟で、光が分かるくらいから0.2程度。この状態でスマホを見ることは、大人が全く度の合わないメガネをかけてスマホを見ているようなものです。
-
乳幼児期は、①ピントを合わせる ②両目で奥行きを捉える ③目(眼球)を動かすといった目の機能が伸びる大事な時期です。近距離でなければ使えないスマホを見せることはなるべく短時間にしたほうが安全と考えます。時間としては1日15分程度が限度ではないでしょうか。
子どもは自分に起こった変化に気がつかなかったり、上手に伝えることができません。下記のようなサインは、目に異変が起こっている可能性も。気になる状況が続く場合は早めに眼科に受診を。
- 斜視のサイン
- ●両目の視線がずれている(遠くを見ている際に、より見つけやすい)
- ●物が二重に見えるようになったと訴える
【斜視のチェックの仕方】
真正面からストロボを光らせ、顔写真を撮影。
瞳の中にストロボの光が入っていれば目の位置は正常です。ストロボの光より内側に瞳があれば、内斜視の可能性があります。
- 近視のサイン
- ●テレビを見るときに、これまでと比べてテレビに近づくようになった
- ●目を細めて遠くを見るようになった
- ●読書・勉強時に姿勢が悪くなっている
- ドライアイのサイン
- ●まばたきが多くなった
- ●目をこすりがち(目がショボショボ、シパシパするため)
- ●目薬を欲しがる(目が乾燥するので)