甲賀市は最も有名な忍術流派のひとつ〝甲賀流〟発祥の地。「甲賀忍者のルーツは〝甲賀武士〟と呼ばれる、普段は農業などをなりわいにする侍です」と教えてくれたのは、「甲賀の里忍術村」の北澤晃さん。現在の忍者像は江戸時代以降、創作物によって広まったもの。実際は武術より護身術や情報収集に長け、天文学や兵法にも詳しい技能集団だったそうです。

同施設には忍者の末裔（まつえい）の民家を移築したからくり屋敷があります。わざと落とし穴で足元に注意を引きつけて頭上から奇襲する仕掛けに、角井さんは「人の心理を突いてますね」と興味津々。突然襲われても敵が刀を振り回せないよう低く造られた天井から、当時の暮らしぶりもうかがえました。

博物館では忍術をまとめた秘伝書「万川集海（ばんせんしゅうかい）」の複製や武器を見ることができます。「甲賀は昔から林業や農耕が盛んだったため、農具を改良して鎖鎌などの武器を生み出していきました。山岳信仰のあつい山に囲まれ、山伏が薬草に通じていたことから薬学も得意でした」と、北澤さん。忍者文化は甲賀の歴史や風土とともに発展したことがわかりますね。

「寺社にも忍者ゆかりの場所は多いんですよ」と案内人の杉田さん。甲賀武士は〝甲賀郡中惣（ちゅうそう）〟という自治組織を結成し、話し合いと多数決で村の取り決めをしていたそう。その集会所の一つとなったのが矢川神社です。7世紀前半ごろ創建と伝わり、古くから甲賀の人々に信仰されています。地域に根ざした神社は忍者にとっても精神的な拠点となりました。

慈眼寺は甲賀武士として活躍した望月嘉左衛門によって建立され、1600年（慶長5年）の「伏見城の戦い」で亡くなった祖先を弔う墓と位牌（いはい）が残されています。この戦いは忍者が活躍した時代の終盤。徳川家康が天下を平定すると、やがて忍者も職を失っていきました。

二つの地を巡り、しんみりとした様子の角井さん。激動の戦国時代を生きた忍者の隆盛と衰退に思いをはせるひとときになりました。

最後に訪れたのは、修験道の霊山、飯道山です。まずは二ノ峰を目指し、宮町登山口から山道を登っていきます。深い緑に包まれ一歩ずつ階段を踏みしめていくと、気持ちも洗われていくよう。

30分ほどかけて二ノ峰に辿り着くと、〝忍びの道〟と名付けられた忍者の行場へ。山頂付近は巨大な岩が露出する険しい道が続いており、忍者の身体能力は厳しい修行のたまものだと実感できます。道中には胎内くぐり、のぞき岩、垂直の岩を鎖で登る平等岩などアスレチック感覚でチャレンジできるスポットも。物怖じせず挑んだ角井さんは「ここ、登ってみたかったんです！」と満足げです。

麓から約１時間かけて登りきった達成感に、角井さんは満面の笑み。山頂ではかつての山岳寺院の面影を残す石垣を見ることができ、遺跡巡りも楽しめました。