琵琶湖マリオットホテル「アフタヌーンティー」で優雅なひととき
春と秋に特集している城跡シリーズ。今年は近江の名門にスポットを当てて、専門家おすすめの城跡を巡ります。春は、鎌倉時代から戦国時代にかけて近江南部を治めた六角氏ゆかりの地を紹介しますよ。
繖(きぬがさ)山
派手じゃないけれど力があった六角氏
訪ねたのは近江八幡市と東近江市にまたがる繖(きぬがさ)山(標高約433m)。東国と京を結ぶ東山(とうざん)道を押さえるこの山に、六角氏の戦国時代の本拠・観音寺城跡があります。山の南側一帯に築かれた城郭は、日本五大山城にも数えられています。
さて、城の主・六角氏は長く近江守護を務めた名門ですが、その活躍ぶりは広く知られていないような…。「城郭をいち早く石垣で整備したことで知られます。派手さはありませんが、織田信長に攻められるまでの約70年間が最盛期で、室町幕府将軍自らが2度討伐を試みたほどの有力者でした」と小林さん。また、「城下町の石寺に自由交易を促す楽市を日本で最初に導入するなど経済政策に長けていた」とも話します。
しかし、美濃から上洛する信長とぶつかった観音寺城の戦いでは、隣の箕作(みつくり)山の支城を攻め落とされると、観音寺城をあっさり開城し甲賀に退却。「この頃の六角氏は家臣団の統制力が弱く、一枚岩でなかったことが逃走の一因だったかもしれません」(小林さん)
そんな六角氏の栄枯盛衰を見届けた繖山に、実はもう一つ、家臣の居城跡とされる佐生(さそう)城跡があります。2つの城跡をまとめて散策しました。
- 石の遺構
- 繖山には巨岩や石の遺構があちこちに。写真は観音寺城の屋敷地跡の伝平井丸。巨石を積んだ虎口(こぐち、出入り口)が際立っています。異世界に入り込んだような廃虚感にワクワク
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今回案内してくれたのは
公益財団法人滋賀県文化財保護協会
写真左から
小林 裕季さん・山口 誠司さん・堀 真人さん滋賀県内で文化財の発掘調査に取り組み、講演会などを通してその価値と魅力を発信
- 繖山
- 安土山の目と鼻の先にある繖山。南側に観音寺城跡、北端に佐生城跡、ほかにも観音正寺(下記)、足利義晴が仮の幕府を置いた桑實寺(くわのみでら)など見どころ豊富
- 眺望
- 城跡から湖東平野を一望。東山道(後の中山道)に沿って住宅が並ぶ様子が見えます。ここからなら街道を監視できそうですね。小さな森は歌枕として和歌に詠まれた老蘇(おいそ)の森。左の山が箕作山
観音寺城跡
石垣で覆った城の先駆け
複数ある観音寺城跡の散策ルートのうち、今回は山上にある観音正寺の裏参道駐車場まで車で上り、そこから城内を歩くルートを選択。それでも実際に歩くと、観音寺城のずぬけたサイズを実感! 中心部だけでもゆっくり回ると2時間かかりました。
観音正寺から歩くこと約10分、城の伝本丸に通じる大石段あたりから見どころが続きます。伝平井丸、伝落合丸、伝池田丸と名前のついた屋敷地跡の石塁や石垣には、とりわけ巨大な石が使われていて目を引きます。「ちなみに、こうした曲輪(くるわ)と呼ばれる屋敷地跡などの平坦面は大小300以上、山の南側斜面に見つかっています。おそらく日本一の数です」(堀さん)というからびっくり。屋敷地がひな壇状に並ぶ山の斜面の光景は、麓から見ると威圧感があったのでは。
また、注目点として小林さんは「本来、石垣で覆った城郭は安土城以降の近世城郭に見られます。それより数十年先行して石垣を多用した観音寺城は中世城郭の例外」と説明。排水用の石の水路なども残り、石を用いた高い土木技術と工夫がうかがえます。
- 大石垣
- 山の斜面に築かれた大石垣。その上から眺める景色は爽快。「高さ5mはあるこの大石垣は、防御というより六角氏の権威を見せつけるものだったのかも」と堀さん
- 観音正寺
- 西国三十二番札所で、聖徳太子創建。寺院を参拝したあと、登城という順になるので寺の拝観料(大人500円、小・中・高300円)が必要。ご城印(写真右)は寺の受付で購入できますよ
- 巨岩
- ごろごろ露出している巨岩もインパクトあり。繖山には古くから巨岩信仰があったよう
- ■DATA
- 国道8号線から五個荘側の有料林道(観音正寺線、600円)を通り、観音正寺の裏参道駐車場(無料)へ ※散策には虫よけ対策を。散策ルートに急斜面、アップダウンあり
観音寺城の北側を守ったとされる城/
佐生城跡
繖山北端(東近江市佐生町)に位置する佐生城跡は、観音寺城の数ある支城の一つ。「登城口から10分ほどで登れる手軽さと、コンパクトな城からは考えられないほど立派な石垣が存在するギャップがいい」と山口さんが推す城跡です。
六角氏の家臣・後藤氏の居城とされますが、「有力な家臣が持ち回りで住んでいたかもしれない」と専門家3人は深読み。「観音寺城との間に尾根を切断する堀切がないので、観音寺城の北側を守備する出先機関的なものと考えられます」(山口さん)
石垣のほかには虎口や土塁を確認できる程度ですが、単純な道筋で、歩きやすく舗装もされており、子連れのお出かけなどにもいいかも。
- 算木(さんき)積み
- 高いところで3m、長さ45mに及ぶ石垣。隅部には横長の巨石を用い、長辺と短辺の向きが交互になるよう積んで頑丈にする、当時では先端技術の算木積みが取り入れられています
- ■DATA
- 城跡西側の北向岩屋十一面観音の駐車場と、東側麓の墓地の横に登城口があります。
観音寺城からそのまま尾根伝いに歩くルートはやや難関
\ 知識を深める /
滋賀県立安土城考古博物館
滋賀県立安土城考古博物館
観音寺城や六角氏にまつわる資料を展示。繖山の麓にあるので散策ルートに加えるのもよし。2022年6月5日(日)まで特別展「戦国時代の近江・京都―六角氏だってすごかった!!―」を開催