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コロナ禍の不安からイライラがたまり、客から従業員へのどう喝や理不尽なクレーム、過剰な要求などをされる〝カスハラ〟(カスタマーハラスメント)が問題となっています。読者の体験談と共に、より良い対応術について、専門家に話を聞きました。紙面協力/福島リビング新聞社
コロナ禍による在宅時間の増加や
ストレスもカスハラの原因に
「お客さんからの嫌がらせ」を意味する〝カスハラ〟(カスタマーハラスメント)。顧客としてより良いサービスを受けるために、期待を込めて希望や要求を伝える〝クレーム〟は大切ですが、理不尽な言いがかりや感情任せの物言いは、気付かないうちに相手を傷つけているかもしれません。
リビング読者にアンケートを実施したところ、59%の読者が「カスタマーハラスメントを受けたこと、または見たことがある」と回答しました。また、企業の危機管理を総合的に支援する「エス・ピー・ネットワーク」が2021年2月26日〜27日に全国の20代〜60代の男女を対象に行った調査によると、2020年1月以降、新型コロナ禍の影響でカスハラが増えている(直接対応した案件以外にも、身近で見聞きした事案も含む)と感じている割合は21・6%。在宅時間の増加や新型コロナ禍におけるストレスも、カスハラの要因だと多くの人が感じているようです。
- カスタマーハラスメントを受けたこと、
または見たことがありますか?
約6割の読者が「カスハラを受けたこと、または見たことがある」という結果に。「はい」と回答した方の多くは、スーパーやドラッグストアなどの身近な場所で経験、目撃をしていました。また、コロナ禍でのマスク着用に関するトラブルも多数寄せられました。
※アンケートは、LINE@・リビングふくしまWeb会員、リビング福島・郡山読者を対象に2021年6月1日〜6月25日にかけて実施。有効回答数59。
読者が実際に経験した〝カスハラ〟エピソードを教えてもらいました。
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マスクを着用していないお客さんに着用をお願いしたところ、「マスクなんて着けても意味はない。お願いなんだから義務ではないだろう!」と怒鳴られました。粘り強くお願いすると、「客がどうしようが勝手だろうが!」とさらにヒートアップしてしまいました。(福島市/S・Kさん)
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私は看護師です。社会的地位の高い患者さんが入院してきて、個室ではないことに「俺を誰だと思っているんだ」と怒鳴りだし…。コロナで面会禁止と言っているのに「秘書を中に入れないとダメだ」と言うし。患者は平等で、個室に入るのも順番だと分からないのでしょうか。(福島市/R・Mさん)
電話で30分間ずっとクレームを受けました。罵声を浴び続け、いつ電話を切って良いかも分からず、黙って話を聞いていました。相手は時間と共に少しだけスッキリしたようなので、当たらず障らずの会話をし、丁寧に謝り、電話を切りました。(福島市/K・Kさん)
食品や生活雑貨などをカタログで販売し、ルート配送で毎週お届けする仕事をしていた時のこと。自分のルート外のお客さんの衣料品の返品回収に伺いました。「コールセンターの対応がすごく悪かった」と大変怒っていて、いきなり包丁を持って怒鳴られました。恐怖のあまり、「申し訳ございません! すぐ上司を呼びます」と急いでトラックに戻り、泣きながら支部長に電話をしてすぐに来てもらいました。本当に怖かったです。(いわき市/Y・Hさん)
スーパーに勤めていた時、明らかに別のスーパーで買った商品(取り扱いのない産地カードが入っていたり、バーコードシールが貼られていたりした)の返金・交換を要求されました。結果、要求に応じることに…。(福島市/K・Yさん)
私はショッピングセンター内の衣料品店で働いていました。ある年のお正月に、靴下詰め放題というイベントを開催。お客さんの袋から靴下がはみ出していたので、「テープで留まらない分は入れられません」と伝えました。その場では指摘に応じてくれましたが、その後すぐに、ショッピングセンターのクレーム投書に名指しで「辞めさせろ」と3回も書かれました。(福島市/S・Nさん)
読者のみなさんが目撃した〝カスハラ〟エピソードも多数寄せられました。
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ドラッグストアのレジに並んでいた時のこと。休止中のプレートがあるにも関わらず、誰もいないレジで高齢の男性が1人怒鳴っていました。そこへ接客対応中と思われるスタッフが近くを通りかかると、男性はさらに大声で「オイ! お前!」と怒鳴りつけて呼び寄せ、「ばか野郎! いつまで待たせるんだ! 早くやれ」と、勝手に休止中のレジに並んでおきながらスタッフが誰もいないことに文句を言っていました。挙げ句の果てに、そのスタッフにレジを開けさせ、会計を済ませていきました。レジ打ち中も「グズが」「ばかが」と罵倒し続け…。今にも泣きそうに顔を赤くさせていたスタッフが本当にかわいそうでした。(郡山市/M・Mさん)
ファストフード店で、思わず涙が出そうなくらい怒られている高校生のアルバイト店員を見ました。まだあまり仕事に慣れておらず、中年の女性に「なにノロノロやっているの! 早くしてよ!」と大声で怒鳴られていたのを目撃。たしかに、店長らしき人が隣にいて、アドバイスしながら接客中でした。割り引きの日は客数も増えて、多忙を極めます。「おばさん、分かってあげて」と、つい叫んでしまいそうでした。人は覚えるまで時間がかかりますからね。(福島市/K・Mさん)
数年前、飲食店でのこと。1組のカップルが入店してきました。店員さんがお茶を出すと、男性の方が「ぬるいんだよ!」と言いながら、出されたお茶を投げつけているのを見ました。夏場だったので、その飲食店ではぬるめのお茶を出していたようです。(福島市/H・Kさん)
コロナの始まりでマスク不足の頃。ドラッグストアに勤めていた娘が、お客さんに毎日のように「マスクを出せ。裏に隠しているんだろう」と言われていたと言ってました。「本当に在庫がございません」と言っても信じてもらえず、「店長を呼べ」と言われたのだとか。「もう嫌だ!」と日々嘆いていました。(福島市/J・Kさん)
レジ袋代を請求されたことに文句を言い、「説明が足りない」「渡し方が悪い」と、言いたい放題の人がいました。以前は、店内で育てている売り物ではない鉢植えをくれと要求していました。(伊達市/M・Hさん)
お店のレジに並んでいた時、イライラした60代くらいの男性のお客さんが、店員の若い女性に「眉毛の形が変だ」とクレームを付けていました。 理不尽だなと思い、「大人しくしていただけませんか?」と伝えると、そのお客さんは静かになりました。(郡山市/S・Fさん)
- クレーム対応は複数人で企業全体で連携
要求に応じる前に弁護士に相談を
「カスタマーハラスメントとは、顧客が、企業に対して、法的な根拠や正当な理由のないクレームを押し通そうとする行為です。悪質なカスハラは、業務妨害罪(電話を執拗にかけ続けるなど)、脅迫罪(危害を加えると脅すなど)等の犯罪に該当する可能性があるほか、民法上の不法行為に該当する場合もあります。顧客を大切にするのは企業経営の基本ですが、不当な要求には毅然と対応するべきです」。そう話すのは多くのハラスメント案件を担当してきた弁護士の阿部亜巳さん。
「まずはクレームの内容を正確に見極めましょう。注文した商品と違う、数が足りない等のクレームは、企業側の契約違反の問題ですから、速やかに事実を確認し、契約上の義務を果たす必要があります。一方、態度が悪い、味がまずい等の主観的な不満によるクレームは、企業側に法的責任がないことが多いため、お詫(わ)びとして安易に金品を渡すことには慎重であるべきです」。
謝罪をする場合、対応期間や回数の上限を決めておくことが大事だと阿部さんは言います。「カスハラ対応に時間と労力を取られることは、企業にとって損害です。何度謝罪しても許してくれない場合、クレーマーの要求は謝罪の先にある金銭の可能性が高いと思われます。クレームに関するやり取りは、記録を残しましょう。証拠になりますし、カスハラ事例を社内で共有する際にも役立ちます」。
カスハラへの対応は、担当者1人に任せるのではなく、複数人で対応し、管理職とも連携して、企業全体で対処することが大切だそう。「法的な視点を持っていると、カスハラ対応がしやすくなります。悩んだ場合は、クレーマーの要求に応じる前に、弁護士に相談しましょう」と呼び掛けていました。
カスハラされたときの
対処5カ条- カスハラは違法行為となり得ることを理解する
- クレームの内容を正確に見極める
- 記録を残す
- チームで対応する
- 専門家に相談するタイミングを逃さない
教えてもらったのは
- クレイス法律事務所
弁護士 阿部亜巳さん - 弁護士法人クレイス法律事務所の弁護士。郡山市教育委員会教育長職務代理者。2児の母。一人一人が自立して主体的に人生を選択できる社会になるよう、困っている人の力になれる弁護士を目指し奮闘中。
- 自分と自分以外の人は違う存在
自身の怒りのポイントや価値観を知ろう
「人は心の余裕がない時に他人の価値観が受け入れられなくなります。イライラや怒りが収まらないとき、まずは自分の余裕のなさに気付くことから始めましょう」。そう話すのはキャリアコンサルタントとして活躍中の池田里香さん。自身も子育てで〝余裕のない〟時期を過ごし、アンガーマネジメントの資格も取得しました。
「怒りの感情がいけないわけではありませんが、怒りにまかせて感情的に言葉を発するのではなく、要望をしっかりと相手に伝えることが大切です。まずは、自分自身と向き合い、価値観を掘り下げて、怒りのポイントを知りましょう。自分自身のことや怒りのポイントが分かると、人とどのように関わっていけば良いのか、さらには自分自身の生き方や将来のビジョンも描けてきます。なかなか自分自身のことを客観的に見られない方は、産業カウンセラーや心理カウンセラーなどの専門家を頼ってみるのも良いと思います」。
では、どうしても怒りが抑えられない時はどうすれば良いのでしょうか。「まずは、ひと呼吸(6秒)置いてみましょう。そして、自分自身を落ち着かせる言葉を心の中で唱えます。そして、怒りのレベルを最大〝10〟とすると、今の自分の怒りはどのぐらいなのか数値化し、自分自身を客観視します。その上で、自分と自分以外の人は違う存在だと認識し、切り離して考えます。そうすることで自分の価値観を知り、人に当たることもなく、前向きな気持ちになれるはずです。ただ、どうしても苦手な人や価値観の違いを埋められない人とは、そっと距離を置くのも自分の心身を健康に保つために大切な手段ですよ」と池田さんはアドバイスします。
カスハラしないための
対処5カ条- ひと呼吸置く
- 心の中で気持ちを落ち着かせる言葉を唱える
- 気持ちを数値化し、客観視する
- 自分と自分以外の人は違うものだと認識する(期待をしない)
- 自分の価値観を知る
教えてもらったのは
- キャリアコンサルタント
池田里香さん - キャリアコンサルタント、アンガーマネジメントファシリテーター。福島県在住、2児の母。個人が輝いた人生を送れるような伴走者になりたいです。キャリアカウンセリング・アンガーマネジメントに興味のある方はcostarica9221@gmail.comへ。
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