運命の1本が眠る〝宝の山〟とは⁈ 【大喜工務店の家づくり⑦】
こんにちは みちわ えんです。
今回は、陶芸家・栗田千弦さんと、栗田さんのショップ&ギャラリー「CLAY STUDIO くり」をご紹介します。
栗田さんにお話を伺いながら、作品の魅力を感じてきました。
「CLAY STUDIO くり」にて
信楽駅から歩いて10分ほどの場所。
大通りから中に入る道沿いに、かわいらしい暖簾(のれん)がかかる古民家があります。
こちらが、「CLAY STUDIO くり」。陶芸家・栗田千弦さんのお店です。
栗田さんとは、7年ほど前、手形の陶板製作をお願いしたことがきっかけで知り合いました。
(本来は、体験型の製作はされていないのですが、とあるご縁があり、特別に引き受けてくださったのでした)
「CLAY STUDIO くり」を訪れるのは、それ以来です。
お店の前に車を停め、中をのぞくと、栗田さんがニコニコ顔で手を振っていました。
「お久しぶりです!わー!ちびっこくん(息子のこと)、大きくなってる~!!!」
当時2歳だった息子のことも、よく覚えていてくださいました。
気さくで明るいお人柄は変わらず、その笑顔に照らされて、私たちもニコニコで再会を喜びました。
ほっこりかわいい、使い心地の良い器
栗田さんと楽しくおしゃべりをしながら、ギャラリー内を見せてもらいました。
ここの奥にある作業場とご自宅のある日野で、器やオブジェ、照明など、さまざまな種類の作品を製作されています。
ほっこりするかわいらしさと、手作りの温かさが持ち味の栗田さんの作品。
ユーモアを感じる模様や形のものも多く、見ていて自然と楽しい気分になります。
奥にある、フランスパン(箸置き)なんて、本物のパンそっくり。火色をパンの焼き色に見立てるとは、ナイスアイデア!
こんな、ナチュラルな雰囲気の白い釉薬のシリーズも製作されています。
野の花のような優しさをたたえた、素敵な作品です。
また、栗田さんの作る器は、使い心地の良さが魅力。
使い勝手がいいように考えて作られているそうで、初めて手に取ったとき、その軽さに驚きました。
その使い心地について、実際にわが家で使っている器でご紹介しましょう。
こちらは、いつも、家族で使っている湯のみと箸置き、豆皿。
長い箸置きは、フォーク&ナイフにも使えて、とても便利なんですよ。
お湯のみは、軽くて、子供の手にも大人にもちょうどいい〝絶妙な大きさ〟が気に入っています。
土の質感が残る火色は、表面がざらっとしていて触り心地もすごくいい。陶器は、触り心地も楽しむものだと、改めて気が付きました。
こちらは、子ども用に購入したお茶わん。
今まで使っていたものが重くて、なかなかお茶わんを持って食べてくれないことが悩みの種でしたが、栗田さんのお茶わんにしてからは、持って食べてくれるようになりました!
軽くて、大きさも小学生にちょうどいいので、息子が愛用中です。
こちらの大きいお皿は、シンプルな中に個性を感じる作品です。
向きによって表情が変わるので、テーブルのアクセントになってくれます。
日々の生活で、楽しく心地よく使える、そんな器を作られています。
父から受け継いだもの
栗田さんの作品には、よく〝くり〟のモチーフが使われます。
先程のお茶わんにも描かれていた、ユーモラスでかわいい〝くりの顔〟は、「CLAY STUDIO くり」のトレードマークです。
実は、この〝くりの顔〟は、お父さまから受け継がれたもの。
「CLAY STUDIO くり」は、別の場所で、陶芸家だったお父さまが営んでいたお店でした。
「お店を継ぐつもりはなかった」という栗田さん。
大学では陶芸とは違う専攻を学び、卒業後は古美術を扱う会社にお勤めされていたそうです。
お父さまの仕事を手伝うようになったのは、退職後のこと。信楽窯業技術試験場で釉薬(うわぐすり)について学んだりして、陶芸に関わるようになった頃――お父さまが病に倒れられました。
その後、お父さまはお亡くなりになり、栗田さんはお店を継ぐことを決めました。
〝くりの顔〟をはじめ、お父さまが考案された定番商品を、今も引き継いで製作されています。
お父さまが考案されて受け継がれたつぶつぶライト
十数年前、私は、別の場所にあったお父さまのお店を、何度か訪れたことがあります。
お店にあった火色の作品のことが、今も心に残っています。
柔らかなフォルムに、深く、温かい色が印象的でした。
(陶板製作をお願いしたのは、そのご縁からでした。)
栗田さんオリジナルしのぎシリーズ
お店を継いで10年ほどが経ち、「CLAY STUDIO くり」には、受け継がれた器とともに、栗田さんのオリジナル作品もたくさん並んでいます。
「栗田さんの作品って、生きているみたいですよね。小さな生物のような。命を感じます。」
と、伝えると、
「そう言っていただけて、すごくうれしいです。確かに、日野の家で庭の草むしりしているとき、植物や虫から、何かパワーをもらうんですよね。」
と、笑って言ってくださいました。
ちょこんと並んで座っている作品たちを見て、十数年前に見たあの火色の作品も、森のドワーフのように優しくたたずんでいたことを思い出しました。
「CLAY STUDIO くり」に漂う、ぬくもり、あたたかさ。
それは、お父さまから受け継がれ、栗田さんによって育まれたものなのだと気が付きました。
お父さまのくりの顔(左)と、栗田さんのくりの顔(右)※筆者所有
新たな挑戦 琵琶湖の水草を使った器
いま、栗田さんは新たな取り組みとして、琵琶湖で刈り取られた水草を使った釉薬で器を製作されています。
琵琶湖の水草は、外来種の流入もあり、大量発生が問題となっています。
船の航行を妨げたり、岸に流れ着いて悪臭を放ったりするほか、琵琶湖の貝や魚の生育にも悪影響があるそうです。
そのため、琵琶湖では、定期的に刈り取り作業が行われています。
そんな厄介者の水草を、刈り取り後に有効活用するため、堆肥にするなどさまざまな方法が考えられています。
栗田さんは、2年ほど前、琵琶湖の水草を使ってガラス作品を作られている作家さんと出会い、水草を使った器の製作を始めました。
その製作過程について、詳しく教えていただきました。
まず、水草を灰にしたものを、乳鉢で粉々にし、水を加えて、水草の釉薬を作ります。
素焼きの器の表側に水草の釉薬を塗り、水草の釉薬と相性がいいマット釉(ゆう)を重ね掛けします。
その際、器の真ん中は水草の釉薬だけが残るように、うつぶせにしてマット釉の中に浸しているそうです。
(空気が入ることで、真ん中にはマット釉がつかない、というわけです)
この作品の真ん中の深緑色が、水草の色。ガラス質の水草の灰が、つややかな質感を放ちます。
そして、水草とマット釉が溶け合ったところは、青みがかった淡いグラデーションになっています。
釉薬の溶け方は栗田さんにも予想がつかず、窯から出すときはドキドキするそう。
一つとして同じ仕上がりにはならない、まさに1点ものです。
日々変わる琵琶湖の水面のような、神秘的な美しさを持つ作品です。
栗田さんの思いに触れて
お店でお話をしていたら、あっという間に時間がたっていました。
栗田さんがお茶を入れてくださり、私たちがたまたま持ち合わせていたお菓子を食べながら、作品のこと、陶芸のことを、じっくり聞かせていただきました。
訪れた人に、すっと寄り添ってくれる栗田さん。その人柄が作品にそのまま表れているなあと、感じます。
〝そばにいてね〟。
そう、呼びかけたくなるのが、栗田さんの焼き物です。
栗田さんの作品は、近鉄百貨店のプラグスシガコレクションや近江八幡の雑貨店 yukiakari さんなどでの展示会にも出展されています。出展の情報は、インスタグラムをチェックしてみてください。